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夢を泳ぐ紙魚

.23 2010 回想 comment(3) trackback(0)


ホルヘ・ルイス・ボルヘスという名前をはじめて目にしたのは中学一年の冬のことだった。軽いのか重いのかよくわからない病で学校を休学して半年が過ぎていた。そんなある日、ぼーっと昼下がりの繁華街をうろついて時間をつぶしていたのだが、いつものようにあっさりと行く場所もなくなり、街でいちばん大きな書店に入り、できるだけわけの判らないものを求めて物色していたら、いきなり『不死の人』などという魅惑的な文字が網膜の奥に焦点を結んだのだった。

思わず手に取り、その扉を開いた。すると、ぼくの手のなかには、<聞いたこともない小説家や見たこともない思想家の引用がちりばめられた謎の書物>があったのだ。胸がときめいた。この本をどうやって万引きしようかと考えた瞬間、ぼくは屈強な婦人警官の手によって腕を掴まれていた。未遂ですらなかった。万引きではなく平日に繁華街をうろついていたという容疑による補導だった。休学しているのに補導というのも面白い話だ。警察から学校に連絡が入った時、ぼくの担任の教師は一笑に付したという。

現行犯直前でありながらお咎めなし。それがぼくの人生。それからというもの、背表紙に触れただけで心臓がアップテンポのビートを刻みだすような本には巡りあっていない。たとえばガルシア・マルケスの『百年の孤独』にしたところで、すでに有名になった後に読むことになった訳だし。だからだろうか。ぼくには夢のなかでだけ訪れる古書店がある。その店の書棚には、誰も知らない事について、誰も知らない作家が書いた、誰も知らない書物が、ぼくに読まれる瞬間を静かに待っているのだ。紙魚に喰われながら。





217.jpg





註釈:そういえば行きつけの夢の本屋のなかに、一軒だけモダンなしつらえの新刊書店がありました。他の本屋はみな薄暗い路地の奥で、裸電球がぶらんとぶら下がっているような店なのですが、そこは明るくて活気があります。よくSFとかアバンギャルドな本を立ち読みします。このあいだ、夢のなかで道に迷って、ひどく猥雑な印象の見知らぬ街の駅ビルに迷いこみ、帰れなくなってしまったのですが、ふと見ると、駅ビルの一角に、その店の支店が出店していました。その店に入ると、馴染みの店主がいました。そしてひとしきり無駄話をして、おもむろに道を聞いて、ようやく帰ることができたのです。あの店主はきっとぼくのために登場してくれたのでしょう。登場するためにわざわざ支店まで出店してくれたのです。なんて義理堅い人物でしょうか。

付記:それにしても、海を漂流するゼラチン状の紙魚に包まれて海面を漂流するのは楽しそうですね。インド洋を横切り、アフリカ大陸を横目でみて、喜望峰に沈むのです。

comment

ashzashwash
そういえば、ボルヘスはこんなことを言っていますね。
当時の作家は著書を売ることなど夢想だにしなかった。あらゆる本に秘密めいたところがあった。これは恐らく、文学にとって良いことだったようだ。大衆に文学をひさぐことや、ベストセラーなどというものは後になって始まったことだ。わたしの時代には身を売ることなどできなかった。つまりそれに対して金を払ってくれる者などいなかったのだ。しかし、その方が良かった。書くのは小さなサークルのため、少数の友人のため、自分自身のためだった。(「ボルヘスとの対話」から)
2010.04.23 23:02
forgetful_cat
中学生の私は与謝野晶子の
「やは肌のあつき血汐にふれも見で さびしからずや道を説く君」
って、どんな意味?
などと、新任の現代国語の男性教師に質問して悩ませ
気に食わない男子生徒の鳩尾を蹴り、失神させ
衆人環視の中で因縁を付けてきた、また違う男子生徒の頬を平手打ちし
その後、彼が不良グループのヘッドに告げ口したので渡り廊下に呼び出され
何人もの不良たちに囲まれ
ヘッドに「こいつを締めて下さい」
などとのたまうので
「仕返しするなら、自力でなさい」
とだけ告げて
「そりゃ、そうだ」とカラカラ笑い出したヘッドと
ぽかんと口を開けて何が起こったのか理解出来ない他のメンバーと
赤面した告げ口男子を置き去りにし
踵を返してさっさとその場を立ち去り
卒業する迄、男子生徒達からは、その後いっさい手を出される事無く
無事、卒業した。



2010.04.24 13:26
ashzashwash
Cool!

ってこういう時に使うことばですよね。それから、このテクストは、あのシリーズのパート3として受け取っておきます。時間軸は少し戻っていますが。次回が楽しみです。
2010.04.24 21:42

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ashzashwash

Author:ashzashwash
桑原義江。男性。Ash。あるいはy<kと名乗った事もある。あるジャズ・レーベルのマネジメント・オフィスに勤務。その傍ら知人の紹介で、ファッションビルの広告媒体や某音楽系出版社の女性雑誌にアート関係の記事を書かせて頂き、その稿料で貧困生活を糊塗する日々が続く。或る日の朝、出勤のため恵比寿の坂道を下っている時に何もかもが嫌になり、地下鉄丸の内線日比谷駅のホームのベンチに蒼白な顔色で座っている姿を学生時代からの友人が見かけたのを最後に、東京23区内から失踪。赤坂のオフィスのデスクの上に残された遺留品は、デルヴォーの画集、カランダッシュの青いボールペン、それからビル・ラズウェルのライブのデモテープ、以上の三点であった。その後、アムステルダムの娼婦街でよく似た横顔の女衒を見かけたという報道もあったが、本人が非公式に否定。現在に至る。

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